原点へ -ローテンブルク-
Rothenburg ob der Tauber
11才の自分が見た風景の中に再び。
ローテンブルクは、私が小学生の時に初めて家族旅行でドイツに来たときに訪れた街のひとつです。
この街の美しさに衝撃を受けたのが私のヨーロッパ好きの原点になっています。
城壁に囲まれた中世の都市。
木組みの家とオレンジ色の屋根が連なる街並み。
おとぎ話の中にいるような景色。
小学生の私は、世界にはこんな美しい街が実在するんだってことを想像もせずにこの街の景色を目にしました。
今みたいに、ガイドブックで前もって情報を得ているわけでもなく。日本しか知らない、ヨーロッパ、ドイツがどんな所か全く無知のままやって来たのです。
お城やかわいい街並みはおとぎ話の中だけの、空想の世界だと思っていたのです。
それが、おとぎ話のように美しい街が実在するなんて。
11才の私には、それはそれは衝撃的でした。
今見たってこの街の美しさはため息もの。
それが、完全無垢の状態で見たんだから、衝撃は何倍にも大きかったはず。
当時から歴史に興味があったので「中世」という響き、にものすごいロマンを感じました。
18年ぶりに再び来てみて。
数百年も変わることのない街並みは20年弱では変わるはずもなく。
当時歩いた街並みはそのまま変わらず。
目にする風景が変わらないので、11歳にタイムスリップしたような不思議な感覚にとらわれます。当時の自分と家族の姿が目に浮かぶようで。
11才の自分と同じ景色の中にいること。
なんだかものすごく感慨深い。
だって、当時の私は29才の私が再びこの場所を訪れること、それもドイツに住むことになるなんて想像もしなかった。
この景色を見たから今の私がある。
あれ以来ずっと、ヨーロッパに住むことに憧れ続けてきてやっと実現できている自分がいる。
ローテンブルクの景色は私にとってのタイムカプセルです。
11才のときに美しいと思った価値観は今でも変わらないし、私の本質なんだと思う。
ブルク公園で目の前に広がる渓谷の緑に囲まれながら。
城壁の中から聞こえてくる時を告げる教会の鐘。
何百年も前から変わらずこの街に響いている鐘の音。街をとり囲む石たちは何百年と毎日変わらぬ音に耳をすませているのだ。
城壁に守られながら、人々は何を変えてきたのだろう。
何が変わってきたのだろう。
変わらぬものの中で変わっていくもの。変わらぬものがあるという安心感。
どれだけ時が流れても、変わらず価値を持ち続けるもの。
流れる時の中で時を止めたままのもの。
はるか昔、中世、敵から街を守った街は、今では時の流れから街を守っている。
この街の歴史からしたら何十分の一でしかない私の人生。
だけど、変わりゆく世の中の中で変わらぬ姿をとどめるこの街に、私の中で十数年変わることのなかった価値観を重ねてみたりするのでした。
戻ってこれてよかった。